退院して数週間後。その日はいつも以上に頭がぼーっとしていた。
暴飲した徹夜明けみたいに頭が重い。集中すれば人との会話を成立させることは出来るが、油断すると人が話している意味を理解できない。数分で限界がくる。とにかく刺激を避ける。人ごみを避け、眼を閉じる。それがその時にできる最善の行動だった。
事情を知らない人からは「眠そうですね。やる気なさそう。」と笑われた。
周りの人たちは異変に気付いていないのだろう。
なんだか嫌な予感がした。
目の前の文字を読もうとしても頭に入ってこない。何度も何度も同じ文章を読み返すが全く意味が理解できない。長年慣れ親しんだ日本語のはずなのに、それはどこか遠い国の遥か昔の象形文字のようだった。決して専門用語が並んだ小難しい文章ではない。小学生にでも理解できる平易な文章。それを自分は理解できないのだ。悪戦苦闘しているうちにどんどん視界が狭くなっていく。次第にその象形文字は歪みだした。焦れば焦るほど視界から文字が消えていく。そして何も見えなくなった。
気付いたときにはベッドの上にいた。泣きながら鼻水を垂らしていたようだ。
退院してから病気とはおさらばだと思っていた。
また同じような症状が出るのでは無いかと不安が募る。
気まぐれなこいつといつまで付き合っていくのだろう。
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